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リスク対応策 2020.03.07

RM 22 「前車の覆るは後車の戒め」”Overturning the front car is a warning to the rear car”

For those who prefer to read this column in English, the Japanese text is followed by a British English translation, so please scroll down to the bottom of the Japanese text.

昨年2019年8月、「はじめにー2つの金融危機の教訓」と題する、60ページに渡る論考を日本銀行金融機構局金融高度化センターが発表した。そのなかに、非常に興味深い「金融機関のリスク、『VaR(バリュー・アット・リスク)の起源』」に関する以下の記述があった。

JPモルガンの最高経営責任者 D.Wetherstoneは、今後24時間に自社のポートフォリオが受けるリスクを計量化することを求めた。これに対して、JPモルガンのスタッフは、金利、株式、為替などの過去の観測データからある確率をもって発生し得る最大損失額(VaR)を予想することを提案し、その計測モデルを開発した。毎日16時15分、VaRの計測結果の報告を受けて、リスク量が資本の範囲内にあること確認してから帰宅した。

「経営者のなんたるか」を教えられるエピソードである。

1.オペレーショナルリスクとリスクマネジメント

1903年、ライト兄弟が人類として初めて空を飛んだ。8年後、既にロイズは航空保険を開発していた。進取の精神に富むダイナミックな保険市場がロイズである。幸いにも、先般、新型コロナウイルスが大流行する前にロンドンに出張できた。航空会社のWEBサイトによると今回で83回目のロンドンであった。

「欧米」という言葉があるが、実は、ビジネスのプロセス、人間の感性は、「欧」と「米」ではかなり異なる。300年経っても、未だにロイズ・ブローカーが重たいファイルをいくつも抱えロイズに行きアンダーライターと面談して引受け条件を決める「欧」、一方「メール、電話」で効率を求める「米」。「欧」では、面談が増えれば、意思の疎通はよくなり、またリスクへの感性も我々と同じ目線へ、好条件、豊富な情報の提供につながっていく。だから、ロンドン保険市場に足を運ぶ。

ロンドンへ出張する前、「日本では、オペリスクへの対応はその後どうなっている?こっちでは金融機関を始め多くの企業ではコーポレートガバナンスの観点から、D&O(会社役員賠償責任保険)のみならず、クライム(企業犯罪補償保険)やE&O(職業賠償責任保険)を掛けているが、日本の話はほとんど聞かないが・・。それで、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)に対応できているのか?」と、古くからの友人、マーク・ジョンソン氏(元「ロイズ」金融機関ビジネス委員会会長)から久しぶりの電話があった。

20年以上前、バーゼル銀行監督委員会は「バーゼルⅠ」の見直しに着手。急速な金融技法の進展は、リスクの違いに立脚した自己資本比率の規制を促した。リスク区分は信用リスク、市場リスクに加え、新たにオペレーショナル(オペ)リスクを導入、①最低所要自己資本比率、②金融機関の自己管理と監督上の検証、③市場規律、これら3つの柱から成る「バーゼルⅡ」が2004年6月公表された。当時、注目が集まったのが新たに導入されたオペリスクである。

バーゼルⅡは「内部プロセス・人・システムが不適切であること若しくは機能しないこと、又は外生的事象に起因する損失に係るリスク。この定義には法的リスクを含むが、戦略リスクおよび風評リスクは含まない」とオペリスクを定め、オペリスクを計測する手法としては、①基礎的指標手法(基礎的手法)、②標準的手法(粗利益配分手法)、③先進的計測手法が認められているが、保険によるリスク軽減が認められているのは先進的計測手法のみであり、しかも軽減率はオペリスクの20%に過ぎない。

にもかかわらず、なぜ欧米では、ほとんどの金融機関がオペリスクに対応する保険を活用してきたのか、「リスク」と「コーポレートガバナンス」に関する日本と欧米との見識の違いが背景にあると考えられる。

金融機関を巡る環境の変化にはこの30年目まぐるしいものがある。1986年の英国の「ビッグバン」から遅れること10年、1996年に始まった「日本版ビッグバン」。上場企業等に内部統制の構築を求める金融商品取引法は、その淵源となった米国SOX法より4年遅れで2006年成立。そして、バーゼルⅡ、さらにバーゼルⅢと矢継ぎ早であった。様々な企業指標の分野に於いて「日本は日本」と言っていたが、「世界統一基準への対応」が急速に進んでいる。金融機関に限らず、「内部統制報告書」の提出を求められ「コーポレートガバナンス」を市場に厳しく検証されることになった、多くの企業にとっても、いまやリスクマネジメント態勢の構築は「待ったなし」の状況である。しかし、どれほどの企業がその対応ができているか、甚だ疑問である。

2002年11月から2003年7月にかけて、SARSコロナウイルスによって発症したSARS( サーズ:重症急性呼吸器症候群)が流行、中国南部、広東省や香港を中心に8,096人が感染し、37ヶ国で774人が死亡した。その10年後、2012年にはMERSコロナウイルス によって、MERS(マーズ:中東呼吸器症候群)が流行、2015年5月から7月にかけては韓国でアウトブレイクを引き起こし186人が感染し、そのうち36人が死亡。そして、いまだに「感染に対して要注意状況」である。20年近く前、SARSの流行によって、「リスクを認知できていた」のであるから、今般の新型コロナウイルスに対しても、「将来発生するリスクへの備えとして、相応の対応ができていたのではないか」と考えるからである。しかし、多くの企業では、「流行が収まる」と「リスクを認識せずそのままのビジネスを続行」していたようである。「中国から原材料が入らないので生産ができない」というだけの企業が、メディアの最近の報道を見聞きする限り多かったからである。

2.会社法

会社法は「会社は各種リスクを把握して制御するリスク管理体制、つまり内部統制システムを構築する責任がある」と定め、「善管注意義務」及び「忠実義務」から、取締役にその実行を求めている。内部統制システムの構築を怠り企業に損失が発生した場合、取締役はこれらの義務に違反したとして損害賠償責任を負う。

こうした義務が裁判上初めて登場したのが、「オペリスクによる世界的巨大損失事象の1つ」と言われている、かつて「ある都市銀行のニューヨーク支店で起きた米国債の不正取引による巨額損失及び隠蔽工作事件」である。取締役に対する「リスク管理体制および法令遵守体制の構築責任」が明示され、総額829億円の損害賠償責任が認められた。一旦発生した場合、このように巨額の損失につながる危険性を持ったものがオペリスクである。看過した経営陣に対する責任の追及は厳しい。

その後のリーマンショックに繋がる、サブプライム・ローン損失は世界的に大きな問題となった。「保険が最後に行き着く場所」とも称されるロイズを始めとしたロンドン保険市場にも飛び火した。米国の保険会社を中心に、全世界では総額5000億円を超えるD&O(会社役員賠償責任保険)、E&O(職業賠償責任保険)損害になったと言われている。

なぜこのような事態が起きたのか。サブプライム・ローンは、多くのローンを集めて証券化されたことで、リスクがある程度軽減化されたように見えた。更に、米国内の貯蓄不足を背景としてヨーロッパの銀行をはじめとする海外の金融機関やヘッジ・ファンドによる、「サブプライム・ローンに基づく証券化商品への積極的な投資」が「サブプライムのリスクを全世界の金融機関に分散化させている」と思われた。

「多くのサブプライム・ローンを集めれば、大数の法則を働かせることができ、貸し倒れの確率の振れを極力抑え安定化させ、キャピタルゲインによってリスク応分以上の対価を得る」という金融技法のリスク軽減策が背景にあった。しかし、「高いリスクをいくら集めても大数の法則は働かない」という「なんでもない保険の常識」が無視された。金融技法、オペリスク計量化の限界と同じモノを感じる。「オペリスク対応に保険をもっと積極的に活用すべきである」とする識者も多い。「1000年に1回のリスクの可能性は予測できても、それが何時起きるか」ということは予測できない。「リスクの深遠さ」を考慮して、オペリスクの対応に欧米のほとんどの金融機関が、「再保険システムを通じてリスク分散をおこなうことができる保険」を活用している所以がそこにあると考える。

今回のまとめ

「前車の覆るは後車の戒め」とは「先を行く車が転覆するのを見たら、後から行く車はそれを見て同じことにならないよう用心できる」という意味の言葉で、中国の「漢書・賈誼伝」にあり、中国後漢の章帝の時、班固・班昭らによって編纂された「前漢のことを記した歴史書」である。また、「論語」には「温故知新」という言葉がある、「歴史を探求して現代への認識を深めていく」という言葉である。

しかし、このように多くの「歴史上の教訓」が残されているにもかかわらず、なぜ「同じ失敗」をし続けるのであろうか。冒頭の日銀の「2つの金融危機の教訓」にしても、「教訓が教訓」としてしか継承されていないことがその理由ではないだろうか。「教訓を教訓だけ」としないために必要なモノは、教訓を「実体化する仕組み」である。

過去のリスクや損失に学び、同じことを二度と起こさないようにリスクマネジメントする。教訓を教訓だけにせず、「保険というリスクヘッジ手段」を活用しつつ、自社の収益向上に繋げる企業戦略こそ、Turning Risk to Profit®(リスクの収益化)であり、そのゴールがソリューション・キャプティブ®の設立になるのではないだろうか。

執筆・翻訳者:羽谷 信一郎

English Translation

Risk Management 22-”Overturning the front car is a warning to the rear car.”

Last August 2019, the Center for Financial Enhancement, Bank of Japan’s Financial Services Agency published a 60-page article titled “Introduction – Lessons from Two Financial Crises”. The following is a very interesting note on “The Origins of Value-at-Risk (VaR), the risk of financial institutions”.

D. Wetherstone, JP Morgan’s chief executive officer, asked for a quantification of the risks to which his company’s portfolio would be exposed in the next 24 hours. In response, JPMorgan’s staff developed a measurement model that proposed to predict the maximum possible loss (VaR) with a certain probability based on historical observations of interest rates, equities, currencies, and other data. Every day at 4:15 p.m., he received a report on the VaR measurement and went home after confirming that the amount of risk was within his capital range.

This episode teaches us what it means to be in management.

1.Operational Risk and Risk Management

In 1903, the Wright brothers were the first humans to fly; eight years later, Lloyd’s was already developing aviation insurance. An enterprising and dynamic insurance market is Lloyd’s of London. Fortunately, I was able to travel to London recently before the new coronavirus pandemic hit. According to the airline’s web site, this was my 83rd trip to London.

Although the term “Western” is used, the business process, the human sensibility, is actually quite different between “European” and “American”. Even after 300 years, Lloyd’s of London brokers still carry heavy files with them to Lloyd’s of London to meet with underwriters and decide on the terms and conditions of the deal. The “US” seeks efficiency. In “Europe”, the more interviews, the better the communication will be, and also the sensitivity to risk to the same perspective as ours, leading to favorable conditions and a wealth of information. This is why I visit the London insurance market.

Before my business trip to London, I was asked, “How Japan has been dealing with operational risk since then. Over here, many companies including financial institutions have not only D&O (Directors and Officers Liability Insurance) but also Crime and E&O (Professional Indemnity Insurance) from the point of view of corporate governance, but we hardly hear about it in Japan. So, do they comply with the Corporate Governance Code?” I got a call from my old friend, Mark Johnson, former chairman of the Lloyds of London financial institutions business committee, who hadn’t called in a long time.

More than 20 years ago, the Basel Committee on Banking Supervision initiated a review of “Basel I”. The rapid development of financial techniques prompted the regulation of capital ratios based on differences in risk. In addition to credit risk and market risk, a new risk category, operational risk, was introduced, and Basel II, which consisted of three pillars: (1) minimum capital requirements, (2) self-management and supervisory verification of financial institutions, and (3) market discipline, was announced in June 2004. At the time, much attention was focused on the newly introduced operational risk.

Basel II is “the risk of loss due to inadequate or non-functional internal processes, people or systems, or exogenous events. This definition includes legal risk, but does not include strategic risk and reputational risk”, and the following methods of measuring operational risk are allowed: (1) basic indicator method (basic method), (2) standard method (gross profit allocation method), and (3) advanced measurement method. In addition, only advanced measurement techniques have been used, and the mitigation rate is only 20% of operational risk.

The reason why most financial institutions in Europe and the United States have been using insurance against operational risk in spite of this is probably due to the difference in views on “risk” and “corporate governance” between Japan and the West.

The environment for financial institutions has been changing rapidly for the past 30 years: the Japanese version of the “Big Bang” that began in 1996, 10 years after the UK’s “Big Bang” of 1986. The Financial Instruments and Exchange Law, which requires listed companies to establish internal controls, was enacted in 2006, four years later than the U.S. SOX Act, which was the source of the law. Basel II and then Basel III followed in rapid succession. Although we used to say “Japan is Japan” in the field of various corporate indices, we have been making rapid progress in “adapting to the global unified standards”. For many companies, not only financial institutions, but also those that are required to submit “internal control reports” and whose “corporate governance” is under strict scrutiny by the market, the establishment of a risk management system is now a situation in which there is no time to spare. However, it is doubtful how many companies have been able to respond to this situation.

From November 2002 to July 2003, the SARS (severe acute respiratory syndrome) epidemic, caused by the SARS coronavirus, infected 8,096 people, mostly in southern China, Guangdong Province and Hong Kong, and killed 774 people in 37 countries. Ten years later, in 2012, the MERS coronavirus caused an outbreak of MERS (Middle East Respiratory Syndrome) in South Korea from May to July 2015, infecting 186 people, 36 of whom died. And we are still in a situation where we need to be aware of the risk of infection, since we were able to recognize the risk nearly 20 years ago due to the SARS epidemic, and we believe that we should have been able to prepare ourselves for the risk of future outbreaks of this new coronavirus. However, it seems that many companies “continued with their business as is without recognizing the risks” when the trend was over. This is because there were many companies that simply said, “We can’t produce because we can’t get raw materials from China,” as far as I can see and hear in the media in recent years.

2.Companies Act

The Companies Act stipulates that “the company is responsible for establishing a risk management system to identify and control various risks, in other words, an internal control system,” and requires directors to implement the system from the perspective of “duty of care” and “duty of loyalty”. If a company fails to establish an internal control system and incurs a loss, the directors are liable for damages for breach of these obligations.

These obligations first appeared in a court of law in what has been described as “one of the world’s largest loss events due to operational risk”: the massive loss and cover-up of a New York branch of a city bank due to fraudulent trading in US Treasuries. The company was found liable for damages totaling 82.9 billion yen ($78.2 billion) to the directors of the bank, clearly stating that they were responsible for establishing a risk management system and compliance system. Operational risk is a risk that, once it has occurred, can lead to massive losses. The management team that overlooked this risk is notoriously difficult to hold accountable.

The subprime loan losses that led to the subsequent Lehman Brothers collapse became a major global problem. It also spilled over into the London insurance market, including Lloyd’s of London, which has been dubbed “the last stop for insurance”. It is said that worldwide, mainly from US insurers, the total amount of D&O (company directors and officers) and E&O (professional liability) losses exceeded ¥500 billion.

How did this happen? Subprime loans were securitized by collecting and securitizing many of the loans, which appeared to mitigate the risk to some extent. Furthermore, “aggressive investment in securitized products based on subprime loans” by European banks and other foreign financial institutions and hedge funds against the backdrop of a shortage of savings in the United States appeared to have “diversified subprime risk to financial institutions around the world”.

This was based on the financial technique of risk mitigation: “If a large number of subprime loans are collected, the law of large numbers can be applied, swings in the probability of loan losses are minimized and stabilized as much as possible, and the risk is more than offset by capital gains”. However, it ignored “common sense” that the law of large numbers does not work no matter how much high risk is gathered. I feel the same thing as the limits of financial techniques and operational risk quantification. There are many pundits who believe that insurance should be used more aggressively to deal with operational risk. “The possibility of a 1-in-1,000-year risk can be predicted, but when it will happen” cannot be predicted. This is why most Western financial institutions use “insurance that allows risk diversification through reinsurance systems” to deal with operational risks, considering the profundity of the risks.

Summary of this issue

“Overturning the front car is a warning to the back car”, which is in the Chinese Book of Han Dynasty, Jia Yi Dien, and means “If the car ahead of you sees the car overturn, the car behind you will be able to see it and take precautions to avoid the same thing”. It is a “history book about the previous Han Dynasty” compiled by Ban Ge, Ban Zhao and others during the time of the Zhang Emperor in the Later Han Dynasty of China. There is also a phrase in the Analects, “Wenniu Chixin”, which means “exploring history to deepen one’s awareness of the modern world”.

But why do we continue to make “the same mistakes” despite the many “lessons of history” that have been left behind? Isn’t the reason why, in the case of the Bank of Japan’s “lessons from the two financial crises” mentioned at the beginning of this article, the only reason is that the lessons have been passed on as “lessons learned”? What is needed to make sure that lessons are not just lessons, is a mechanism to materialize those lessons.

We need to learn from past risks and losses and manage risks so that they do not happen again. Turning Risk to Profit® is a corporate strategy to make lessons learned not just lessons learned, but also to improve the company’s profitability while utilizing the risk hedging mechanism of insurance, which is the goal of establishing a Solution Captive®.

Author/translator: Shinichiro Hatani