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リスク対応策 2020.03.17

RM 27 「荷物検査」Baggage check

For those who prefer to read this column in English, the Japanese text is followed by a British English translation, so please scroll down to the bottom of the Japanese text.

ロンドン、ヒースロー空港。「ピィー」、ふと振り返ると手荷物検査の機械を通した同行者のカバンに「ハサミ、小型ナイフ等がある」との反応。「もう一度通します」、否応もなく係員が手荷物をもう一度機械に通す。同時に同行者自身には、まったく金属反応がなかったにもかかわらず、「もう一度通りなさい」。

傍らには、自動小銃を持った警官が2人立っている。何時からこんなに厳しくなったのか。「ピー」、また鳴った。今度は係官が手荷物を掴み、小型の金属検査機で検査。「反応が出ている、何か入っている」、「開けていいか」、「どうぞ」、「ほら、あった」。ホテルのトラベルキットに入っている「小さなハサミ」を見つけた。「ああ、すいません」。係官も「得意げに」ニッコリ笑って「もういい」と「放免」。「もう一度、他にないか」を調べることはしなかった。

もし、「誰か」が、小さなハサミを「ミセモノ」として「ホンモノ」を別に入れていたら、「まさか」、そう思うと背筋が寒くなる思いがした。

(ロンドン・ヒースロー空港の到着ロビーへのアクセス通路)

1.2001年9月11日

この日、反米過激派国際テロ組織による同時多発テロが米国を襲った。日系アメリカ人が設計したことでも有名な、合計7つのビルで構成されたニューヨークの世界貿易センタービル(WTC)。その110階建ての南北ツイン・タワーに2機のハイジャックされた旅客機が突入、ビル全体を炎上、崩壊させ、膨大な数の死傷者を出した。

その8年前、1993年2月26日、地下駐車場に停めてあった車にあった時限爆弾が爆発、多くの被害者が出たことに続いて、2001年9月11日、2度目の惨劇が、さらにその範囲、規模を遥かに広げて起こったのである。

2.RIMS(リムズ)

本コラムの「リスクマネジメント7-RIMS(リムズ)のキャプティブ講座」に記したが、今から20年前、1999年4月、世界のリスクマネジメントを代表するリスク・マネージャー及び保険関係者で構成される、Risk & Insurance Management Society, Inc.(通称RIMS:リムズ)「リスク・保険管理者協会」の第37回総会が、約10,000人を超える参加者のもとテキサス州ダラスで開かれた。

総会のハイライトは、上述の救出劇のプレゼンであり、世界貿易センタービルのリスク・マネージャーがビデオを駆使して、その様子を語り、満座を埋めた数千人に大きな感銘を与えた。その、もう一つのハイライト基調講演をおこなったのが、1991年の湾岸戦争で指揮を執り、その後国務長官に就任したコリン・パウエル氏であったこと、これらは歴史の皮肉であろうか。

財閥系生命保険会社から損害保険事業に関する経営コンサルタントを委嘱され、米国のCIGNA本社在勤時代に所属していたキャプティブ部門での経験から、経営コンサルティング先の損害保険会社の商品サービスに「キャプティブ設立」サービスを入れるため、その調査と交渉を目的として参加したRIMSであった。

3.エンパイヤー・ステートビルへの航空機の衝突

惨劇の面が強調されたためか、あまり報道されていないことであるが、実は「米国同時多発テロ9・11」の背景には、2つのリスクが存在した。一つは「世界貿易センタービルが攻撃を受けるリスク」、もう一つは「ビル自身の構造上のリスク(問題点)」である。

ロンドンに拠点を置く、アラビア語新聞「アル・アラブ」紙の報道によれば、国際テロリスト集団、アルカイダは、同時多発テロの3週間前には、「全世界にある米国の利益、権益に対して大規模な攻撃をする」、そう警告して、幾つかの金融機関にも同様の警告文が届いていたと言われている。

「まさか」は無かったのだろうか。「まさか、そんなことは起きまい」、「まさか、米国が攻撃されることなど起きるはずがない」。しかし、リスクマネジメントは、この「まさか」を検討、検証することがその使命である。

「9・11」のようにテロリストが突入したケースではないが、高層ビルへ航空機が衝突するリスクは過去に例がなかったわけではない。世界貿易センタービルができるまで、ニューヨークのシンボルとされた、エンパイヤー・ステートビル、実はこのビルにも航空機が衝突したことがある。

第二次世界大戦の末期、1945年7月28日、早朝、濃霧のなかニューアーク空港に着陸しようとした爆撃機がエンパイヤー・ステートビルの78階に衝突、機体が建物を貫通、78、79階で大規模な火災が起き、12人の死者を出し、エンジンがエレベーター・シャフトを落下、地下で火災が発生したのである。

なぜ、世界貿易センタービルが旅客機の衝突炎上後、短時間で崩壊したのか。当時読んだ米国の建築の専門誌には、「ビルに航空機が衝突することも想定、衝突面の3分の2の柱が壊されても持ちこたえる構造に設計した」、「設計当時に最大の航空機であったボーイング707型機が何本の柱を壊すかを計算して設計した、しかし実際に激突した飛行機は767型機で、重量、速度、搭載燃料の点で想定を超えていた」、「さらに大きい747型機の衝突を想定するとそれは『砦』になってしまい、賢明ではない」、「より警備を高めた航空機とより警備を高めた航空システムで対処すべき問題だと、構造設計者は語った」とあった。

 

4.新たなリスクの創出

9・11は、ビルの崩壊によって多くの尊い犠牲者を出したが、「新たなリスクと被害」も生んでいた。当時、多くのニューヨーク市警の警察官や消防士が、世界貿易センター(WTC)ビルに駆けつけた。彼らはそれから3カ月間、がれきの山となったビルの崩落現場で生存者や遺体を使命感から懸命に捜し続けた。

しかし、それは、懸命ななかでは想像もしなかった、ビルの建設当時は普通に使用されていた「アスベスト」が充満、散乱する中での任務だったのである。その後、健康がむしばまれるようになり、多くの警察官、消防士がガンを罹患した。

こうして、緊急出動した人たちの間では、今も関連死が増え続けている。「現場で激務をこなし、健康を損ねた人たちの医療費を支援する『9・11被害者補償基金(VCF)』は、多くの支払い請求を受けて財源が不足して2020年12月には打ち切られる」ということも一旦は議会評決の俎上に乗ったが、幸いにも延長された。大惨劇から20年近く経った今でも、「惨劇から人々を救おうとした人たちが苦しんでいる状況」がある、いまだに「大惨劇は終わっていない」のである。

なぜ十分な補償が提供できないのであろうか。そこには、「誰が、なぜ補償するか」ということが明確になっていないことが見え隠れする。「ビルの崩壊への対応」という直接的な被害に関する補償ではなく、当時は「普通に使われていたモノ」が、「後に有害物質と分かったモノになったことによる被害だから」である。東日本大震災の津波によって「流された多くのクルマが保険の補償の対象になっていなかった」ということと同じ思いを持つ。「意味のある補償、保険とは何か」を考えさせられる事象である。

5.キャプティブの活用は

1993年のテロによる爆破事件の時は、WTCの所有者であった「ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社」はロイズを含む民間保険会社などに付保しており、財物と休業損害に対する保険は合計6億ドルまで、賠償責任保険は合計4億ドルまでカバーされていた。ビルが崩壊する損害ではなく、「爆弾の爆発」であったため、十分な補償たり得た

また、2011年の9・11米国同時多発テロの際も上記港湾公社は経済的損害については保険で実質的にカバーされると発表した。一方、WTCの入居条件の一つに「自衛のための保険を十分に付けておくこと」があった。入居企業は最低100万ドル以上の休業損害保険を付保しなければならなかった」のだ。ビルオーナーにとっては家賃収入の確保が、入居企業にとっては自衛、自助が可能になるという両面のメリットがあり、「リスクマネジメントの思想」が表れている。

テロによる損害は保険金支払いの対象になった。事件後当時のブッシュ大統領は「これは戦争だ」と主張したが、保険契約書上の戦争と、政治的な用語としての戦争とは定義が異なるからである。

保険契約上の戦争とは、①政府または国家権力②陸海空軍③これらの代理人や代理組織による敵対行動とされており、民間機を乗っ取って建物に激突させるやり方は「軍事力の行使」とはならないからである。しかし、その後、米国が報復攻撃に出て起きた「二次テロ」は戦争と解釈され、「戦争リスク」として保険の補償の対象外となる可能性がある。

この世界貿易センタービル(WTC)の崩壊が再保険市場に与えた影響は甚大であった。再保険は「損害保険会社が自社の経営体力だけでは担保しきれない巨大リスクについて再保険料を支払って他の損害保険会社にそのリスクを一定割合、肩代わりしてもらう仕組み」である。地震や台風など大規模な自然災害の被害が少数の損保に集中するのを避けるため、世界の保険会社が共同でリスク分散することを目的としているものであるが、莫大な損害はその後の再保険の仕組みや約定規定にも影響を与えることになったからである。

今回のまとめ

当時の「世界貿易センタービル(WTC)」の大きさからしても保険料も相当な規模になるにもかかわらず、なぜ、テロリスク、それに付随する様々なリスクも含め、保険全般に関してキャプティブの設立をおこない統合的なリスクマネジメントをしなかったのであろうか、世界貿易センタービルの崩壊は「起こりえない事態である」という発想があったのではないだろうか。

キャプティブは、上記のようなテロリスク、大地震リスクのように「発生する頻度、確率は高くはないが、一旦起きたら非常に大きな損害を与えるリスク」に最適のリスクマネジメント・プログラムである。「起きそうもないが起きたら甚大な被害になるリスク」が最もキャプティブ設立のメリットを活かせる分野である。そのようなリスクを抱えている企業では是非取り組むべき企業戦略課題だと考えるのである。

執筆・翻訳者:羽谷 信一郎

English Translation

Risk Management 27 – Baggage Check

London and Heathrow Airport. “Beep.” I turn around and see my companion’s bag going through the baggage check machine, and he says, “There are scissors, a small knife, etc.”. I’ll put it through again.” Without thinking twice, the staff put the bag through the machine again. At the same time, my companion had no metallic reaction to the machine, but he said, “Pass through again”.

Two policemen with automatic weapons stood beside me. Since when did they get so strict? “Beep,” they beeped again. This time the officer grabbed his luggage and inspected it with a small metal inspection machine. He said, “There’s a reaction, something in it.” “Can I open it?” “Here you go.” “There you go. He found the “little scissors” in the hotel travel kit. “Oh, sorry”. The attendant smiled at him and said, “That’s enough.” “I’ll let you go”. He didn’t look again to see if there was anything else.

If someone had put a pair of small scissors in a separate compartment with a real weapon, I felt a chill down my spine when I thought that.

1. September 11, 2001

On this day, a simultaneous terrorist attack by an anti-American extremist international terrorist organization struck the United States. The World Trade Center (WTC) building in New York City, famously designed by a Japanese American, consists of seven buildings in total. Two hijacked airliners plunged into the 110-story North-South Twin Towers, setting the entire building ablaze, collapsing it, and causing a huge number of casualties.

Eight years earlier, on February 26, 1993, a time bomb exploded in a car in an underground parking garage, killing dozens of people, and on September 11, 2001, a second tragedy of far greater scope and scope occurred.

2. RIMS

As described in “Risk Management 7-RIMS (RIMS) Captive Course” in this column, 20 years ago, in April 1999, Risk & Insurance, a group of leading risk managers and insurance professionals from around the world, established the Risk & Insurance Association (RIMS). The 37th Annual Meeting of the Management Society, Inc. (aka RIMS: RIMS) “Risk and Insurance Managers Association” was held in Dallas, Texas with over 10,000 people in attendance.

The highlight of the AGM was the presentation of the aforementioned rescue, where a risk manager from the World Trade Center building used video to tell the story and impressed the thousands of people who filled the full house. The irony of history is that the other highlight keynote speaker was Colin Powell, who led the 1991 Gulf War and later became Secretary of State.

He was commissioned by a conglomerate life insurance company to act as a management consultant on its property and casualty insurance business, and based on his experience in the captive division of the company while working at CIGNA’s headquarters in the United States, he joined RIMS to research and negotiate for the inclusion of “captive establishment” services in the product services of the property and casualty insurance company to which he was providing management consulting.

3. Aircraft crash into the Empire State Building

Perhaps because of the emphasis on the tragic aspect of the attacks, this has not been widely reported, but there were actually two risks behind the 9/11 attacks in the United States. One was the risk of the World Trade Center being attacked, and the other was the structural risk (problem) of the building itself.

The London-based Arabic-language newspaper Al-Arab reported that three weeks before the attacks, the international terrorist group al-Qaeda warned of a “massive attack on U.S. interests around the world,” and several financial institutions were reportedly sent similar warnings, according to the London-based Al-Arab newspaper.

Was there ever a “no way”? “No way. That’s not going to happen.” “There is no way the U.S. could be attacked.” But the mission of risk management is to examine these “no way” scenarios.

While not the case of 9/11, the risk of an aircraft crashing into a high-rise building is not unprecedented. The Empire State Building, the iconic symbol of New York City until the World Trade Center was built, was in fact also hit by an aircraft.

At the end of World War II, on July 28, 1945, in the early morning hours of July 28, 1945, a bomber hit the 78th floor of the Empire State Building as it was landing at Newark Airport in dense fog, causing a massive fire on the 78th and 79th floors, killing 12 people, causing the engine to fall down an elevator shaft and causing a fire in the basement.

Why did the World Trade Center building collapse so quickly after the airliner crash and burn? According to an American architecture magazine I read at the time, “The building was designed to withstand a possible airplane collision, even if two-thirds of the pillars of the collision surface were destroyed”, “We calculated how many pillars could be destroyed by a Boeing 707, the largest aircraft at the time of design, but the actual plane that collided with the building was a 767. and exceeded expectations in terms of weight, speed and on-board fuel.” “Assuming a collision with an even larger 747, it would be a ‘fortress’ and would be unwise.” “The structural designers said it was an issue that should be addressed with a more secure aircraft and an aeronautical system with more security, the structural designer said.”

4. Creating new risks

While 9/11 claimed many precious lives as a result of the building’s collapse, it also created “new risks and damage”. At the time, many NYPD police officers and firefighters rushed to the World Trade Center (WTC) building. They spent the next three months searching hard for survivors and bodies at the site of the building’s collapse in a pile of rubble.

However, they could not have imagined, in all their hard work, that they would be working in a building full of “asbestos,” which was in common use when it was first constructed. After that, the health of the people who were working in the building was undermined, and many police and firefighters developed cancer.

Thus, the number of related deaths among those who responded to the emergency services continues to rise. It was once on the chopping block of a congressional verdict that “the 9/11 Victims Compensation Fund (VCF), which assists in the medical costs of those who performed hard work in the field and whose health was compromised, which was going to be terminated in December 2020 due to many payment claims and lack of funding.” But fortunately it was extended. Nearly 20 years after the catastrophe, we still have “a situation in which those who tried to save people from the tragedy are still suffering”, and the “catastrophe is not over”.

Why is it that adequate compensation cannot be provided? There is a lack of clarity about who will be compensated and why. The reason for this is not compensation for the direct damage caused by “responding to the collapse of a building,” but rather the damage caused by the transformation of what was “normally used” at the time into “what was later found to be a toxic substance”. I feel the same way as the fact that many of the cars that were washed away by the tsunami in the Great East Japan Earthquake were not covered by insurance. This event makes us think about “what is meaningful coverage and insurance”.

5. The use of captives is

At the time of the 1993 terrorist bombing, the Port Authority of New York and New Jersey, which owned the WTC, insured the building with private insurers including Lloyd’s of London, and covered up to $600 million in property and business interruption damage, and up to $400 million in liability insurance in total. Because the damage was a “bomb blast” rather than a building collapse, it would have been sufficient.

Also, at the time of the 9/11 terrorist attacks on the U.S. in 2011, the Port Authority announced that the insurance would cover substantially all economic damages. On the other hand, one of the conditions of the WTC’s occupancy was that the company must have adequate insurance for self-defense. “Tenant companies were required to carry a minimum of $1 million in lost time insurance”. The “risk management philosophy” is evident in the benefits of both sides of the equation: for the building owner, rent income is secured, and for the company that occupies the building, it enables them to protect themselves and help themselves.

Damage caused by the terrorist attacks was covered by insurance payments. After the incident, then-President George W. Bush claimed that “this is war,” because the definition of war in an insurance policy is different from that of war as a political term.

War under insurance policies is defined as (1) hostile action by (2) the government or national authorities, (3) the army, navy, and air force, and (4) their agents or representatives. However, a “secondary terrorist attack” that occurred after the United States went on a retaliatory strike could be construed as war and could be excluded from insurance coverage as a “war risk”.

The impact of the collapse of the World Trade Center (WTC) on the reinsurance market was profound. Reinsurance is “a mechanism whereby non-life insurers pay a premium to have other non-life insurers assume a certain percentage of risks that are too great to be covered by the company’s own financial strength alone”. The purpose of the scheme is to prevent damage from large-scale natural disasters such as earthquakes and typhoons from being concentrated in the hands of a small number of P&C insurers around the world, and to allow them to spread the risk together.

Summary of this issue

Given the size of the World Trade Center (WTC) at the time, and the substantial insurance premiums involved, I wonder why they did not establish a captive and conduct integrated risk management for all aspects of insurance, including terrorism risk and the various risks associated with it, and why they did not consider the collapse of the World Trade Center to be an “impossible event”.

Captive is the best risk management program for “risks that are not likely to occur with high frequency or probability of occurrence, but which, once they do occur, could cause significant damage,” such as terrorism risk and earthquake risk, as described above. “Risks that are unlikely to occur but which, once they do, would cause extensive damage” is the area where the benefits of establishing a captive can be most effectively utilized. We believe that this is a strategic issue that companies with such risks should definitely address.

Author/translator: Shinichiro Hatani